いつもはがしゃがしゃと音を立てている給食袋も、今日は大人しい。特に悲しいことがあったわけでもない。ただ楽しくもないだけ。

 僕は団地の階段をゆっくりと上り、立て付けの悪い玄関扉を開ける。鍵はいつも開いている。
「おかえりなさい。今日は早かったのね」
 リビングでは母が、トルソーに着せた洋服を撮影していた。母のスマートフォンがマリンバの音を鳴らす。僕の帰宅時間を知らせるアラーム。
「おやつはどうする?」
「公園で食べる」
 分かってはいるけれど一応聞いてみた、といった表情で、母はデジタルカメラをテーブルに置く。長財布から二百円を取り出して僕の手のひらに乗せる。
「よしながはダメだからね」
 小銭の置かれた手を握って念を押される。
「うん」
「おやつはファミマで買うのよ」
「分かってるって」
 給食袋を洗濯かごに入れ、箸箱をシンクに入れてから、僕はランドセルを自分の部屋に置きに行く。