「悔い?」
「最近、昔のことばっか思い出すんだ」
 オオクラさんだかオカムラさんだかが、横目で店の入り口を見る。吉永さんがレジ横の小さな冷蔵庫からカップ酒を取り出している。こちらを向いていないのに、不機嫌だということがなぜだか分かる。
「もし、やり直せるんなら」
 ひとりごとのように彼はつぶやく。
「吉永なんかに渡さねーのになあ」
ここに僕がいることを忘れているのか、酔っ払っているのか、もしくはその両方なのだろう。

 なるほどそういうことか。
 彼が吉永さんを旧姓で呼び続ける理由が、なんとなく分かったような気がする。大人の世界も色々めんどくさいものだと思う。
「亨、こんな暗いのに帰らなくていいのか」
 オヤマさんだかオガサワラさんだかが、たった今気づいたかのように僕の顔を見る。
「帰るよ」
 真面目に話を聞いていた自分が馬鹿らしくなって、僕は再び家路に向かう。空き箱をポケットに突っ込みながら。