母は幼い頃からこの町に住んでいた。一度は引っ越したのに、父との結婚を機にまた戻ってきたという話を聞いたことがある。よほど郷土を愛しているのかと思うけど、そうでもないみたいだ。
「昔はもうちょっとましだったけどねえ、二代目も」
 しばしば口にする近所の人々への愚痴を、父は黙って聞いている。

 引き出しからハガキを取って台所を出る。母の声がまだ聞こえてくる。
「吉永の奥さんもかわいそうよ。あんなところに縛られて」
「まあ、奥さんでもってるようなものだからなあ」
「再婚するなり、籍を抜くなりしてさっさと自由になればいいのに」
 同情というよりも、なんだか怒っているみたいな声。
「お父さんも年だし、難しいんじゃないか」
「だって、自分の親でもないのに」

 僕は自室に戻って懸賞の応募券を切り取る。それをハガキに貼り自分の名前と住所を書く。
「ロックシード、届くのかな」
 金色に輝く応募券には、『9』という数字が書かれた錠前のイラスト。
 あまり期待はしないでおこう。僕は書き終えたハガキを机の隅に置いた。