朝の空気はまだとても冷たくて、吐く息が白くなっている。僕はポケットに手を突っ込み、いつもの通学路を外れて公園方面に向かう。
 よしなが酒店の扉は、朝だというのに既に開いていた。店の近くの植え込みのレンガに、オオキさんだかオオクボさんだかが座って缶コーヒーを飲んでいる。
「お前なにやってんの。学校こっちじゃないだろ」
「ポストに寄っていこうと思って」
 僕が彼の前で足を止めると
「俺か? 俺はここで朝のコーヒーを飲むのが日課だから」
 と、聞いてもいないのに、頬骨のあたりを掻きながら彼は答えた。

「お父さん、ごみ出しなら私がやりますから」
「悪いねえ、早百合ちゃん」
 よしなが酒店の中から吉永さんと老人の話し声が聞こえる。
 吉永さんが大きなゴミ袋をふたつ持って出てくる。僕たちを一瞥して、そのまま声もかけずにごみ収集所に向かう。
「吉永早百合なんて名前、似合わないよなあ」
 そこが痒いのか、岡田さんは目の下あたりをしきりに擦っている。

「あんたたち、学校と仕事は?」
 戻ってきた吉永さんに一喝されたので、彼は空き缶を自販機横のゴミ箱に捨て、僕は公園前のポストに向かう。
 少し歩いてから振り返ると、彼は吉永さんの前で頭を掻いていた。なにかを話したようだけど無視される。パーマなのか寝癖なのか分からない髪の毛が、更に乱れる。
 乾燥の季節だからあちこち痒くなるのかなあ。などと僕は考えていた。