その不機嫌そうな目を、一文字に結んだ口元を、どこかで見たことがあるような気がした。
 サユは僕の言葉に納得したのか、ヨーヨーを巧みに操りながらジャングルジムの方へ歩いて行く。
「オーちゃん、続きやんないの?」
 ぼんやりと彼女の背中を見送っていたオーちゃんは我に返り
「ショーグンと呼べってば」
 と、ぶつぶつ言いながら、僕に木登りを教えてくれる。

「わあ」
 押されたり引かれたりしながらようやく登った樹の上は、なかなか悪くなかった。
「これでトールも仲間だ」
 オーちゃんが一握りのどんぐりをくれる。なんだか生暖かいそれを、僕はパーカーのポケットにしまう。
 他の子供たちはもっと上に登ってしまった。僕が立っているのは一番下の枝だけど、それでも黄金色の葉陰から、小さな公園が一望できる。

 僕の横に立っていたオーちゃんがジャングルジムを睨んでいる。さっきまでてっぺんにいた眼鏡の少年が、ジャングルジムにもたれかかってサユと話している。
 僕はひとつの確信を持ってオーちゃんに質問する。
「あの子、長澤早百合?」
「なんでサユのこと知ってんの」
 オーちゃんはちょっとだけ不思議そうな顔をする。
 間違いない。あの女の子は長澤早百合、つまりは旧姓の吉永さんだ。