空はさっきまでと同じ濃さだった。だけどよしなが酒店の前はしんとしていて、オザキさんだかオダジマさんだかがぽつりと立っている。
「そっちこそなにやってんのそんなところで」
「長澤に追い出された」
 片手に持った飲みかけのカップ酒を小さく持ち上げる。

 こっそりとよしなが酒店を覗く。吉永さんがカウンターに頬杖をついている。薄暗い店内で黄色味を帯びた電灯が彼女を照らしていた。
 僕は自分がどこにいるのか分からなくなってくる。

「吉永さんの旦那さんって、いつ亡くなったの」
「吉永か」
 オミネさんだかオグロさんだかは随分と酔っているようだった。不快そうな表情で赤くなった頬を掻く。
「亨が二歳か三歳くらいの頃だよ。覚えてないか。お前も通夜に来たんだぞ」
 覚えていなかった。僕が物心ついた頃には、よしなが酒店への出入りは禁止されていた。
「吉永だけは絶対に許せねえ。長澤を置いていきやがって」
 彼は相変わらず吉永さんのことを旧姓で呼ぶ。
「あの時に俺が勝っていたら、吉永なんかに長澤を渡さなかったのに」
「あの時?」
 彼がまた頬骨を掻く。よく見ると右目の少し下あたりに薄い傷跡があった。