大人は酒を飲むとどうして饒舌になるのだろう。自動販売機の前でカップ酒を飲みながら、オシオさんだかオノヤマさんだかが僕に語る。
「長澤を賭けたんだ」
 彼は小声で教えてくれる。
「俺たちが亨くらいの頃、俺と吉永はそれぞれの派閥を持っていた」
「派閥」
「俺たちは友達だったし、本気でいがみ合っているわけじゃなった。放課後だけの他愛ないゲームだったんだよ。吉永が言ったんだ。長澤を賭けようってな」
 その話は、さっき起こった出来事のように、もしくはこれから起こる出来事のように聞こえた。
「表向きはおもちゃやシールなんかのガラクタを賭けて、俺たちは戦ったんだ。そんで俺が負けた」
 彼はまた頬を擦る。酔いのせいか頬骨のあたりにある傷跡が赤く浮きだして見える。
「それで吉永さんと吉永さんの旦那さんは結婚したの?」
「俺は長澤に想いを伝えなかった。負けたからな」
「大人になってからも?」
「ああ」
 彼は子供の頃の約束を律儀に守ったのだ。
「もし勝っていたら、吉永さんにプロポーズした?」
 プロポーズ、という言葉に驚いたのか、彼は飲んでいたカップ酒を吹き出す。
「したよ」
 作業着の袖で口元を拭いながら、彼は楽しそうに笑った。