「えっと、ファミマで買った」
 母はウエハースチョコレートを持ったまま僕を見下ろしている。
「よしながで買ったんでしょう」
「どうしたんだ?」
 なだめるように尋ねる父に、母はパッケージを突きつける。
「見てよこれ、二十年以上も前に賞味期限が切れてるのよ。こんなのコンビニで売るはずないじゃない!」
「まさか」
 笑いながらパッケージを受け取った父が「ほんとだ」と目を丸くする。
「復刻版なんじゃないの。二十世紀に作られた菓子が、こんなにきれいな状態で残ってないだろ」
「ちょっと、食べちゃダメ!」
「うまいよフツーに。腐ってないよ」
 のんきにウエハースをかじる父に、母は頭を抱える。

 結局ウエハースチョコレートは取り上げられてしまった。レアだというシールだけはこっそりズボンのポケットに入れた。
 僕は夕食のしょうが焼きを食べながらぼんやりと考える。
「よしながに聞いてこなくちゃ」
「やめとけよ」
 母はまだ怒っている。僕は確かによしなが酒店で菓子を買った。だけど吉永さんのいるよしなが酒店ではない。
 これは僕の夢で、まだ夢は続いているのかも知れない。