サユの夢を見ていた。公園の真ん中に不機嫌な顔でぽつりと立っている。僕はクヌギの樹の上からそれを眺めている。声をかけたいと思うけれど、その樹はとても高くて、僕は降りることができない。

 目を覚ましてからすぐに机の引き出しを開ける。きらきらしたシールと、錠前と、どんぐりがそこにちゃんと存在している。
「夢じゃなかった」
 昨日の夕方、僕に不思議な錠前が届いた。ダイヤルを『1985』に合わせるとロックが開き、僕は違う世界に行った。吉永さんが僕と同じくらいの子供で、二十世紀に流行したお菓子が売っている世界。
 引き出しから錠前を取り出す。ダイヤルは『2013』になっている。今日は二〇一三年十一月八日だ。
「一九八五年だったのかな」
 サユが十歳だとして、吉永さんが今三十八歳ならば計算が合う。

「亨、起きてるの」
 母が僕を呼ぶ。キッチンから卵を焼く匂いがする。僕は錠前のダイヤルを回しかけて思い留まる。
「起きてるよ」
 引き出しを閉じてから、僕は自分の部屋を出た。