サユはチイちゃんと並んでベンチに座っている。リカちゃん人形を手に取り、それを眺めている。俯いているせいでここから顔は見えない。きっと微笑んでいるのだろうなと思う。

「リュウタ、ケンジ、行け!」
 ポケットいっぱいにどんぐりを詰めた二人が樹から降りる。僕は一番下の枝に立って公園の様子を伺う。
「もしこの戦いで僕たちが勝ったら」
「もし、じゃなくて勝つんだよ」
 サユはまだ十歳くらいで、だけど将来は既に決められている。結婚して姓は吉永に変わり、夫を亡くし、一人でよしなが酒店を守ることになる。いつも不機嫌な表情で。
 クヌギ軍が勝てば、オーちゃんは大人になってサユにプロポーズする。幸せに暮らす彼と吉永さんを、僕は想像してみる。
「うーん」
 それはなぜだか僕を苛立たせた。だれかと一緒に笑っている吉永さんという空想。

「トール、そろそろ行っていいぞ」
 オーちゃんに促され、ジャングルジムから死角になるように樹を降りる。胸の奥に広がるもやもやした感じに首を傾げながら。
 サユはヨーヨーの練習をしていた。一人でポーズを取ったりしている。口が小さく動いているから、小声で決め台詞でも言っているのかも知れない。僕は彼女を横目で見つつ公園の外に出る。